【労働基準法】40年振りの抜本改正! 企業が影響を受ける7つのテーマを解説

CoRunの労務コラム

はじめに

今回の労働基準法改正は、大きく分けて次の2つの背景によって見直しが検討されています。

  1. 働き方が多様化していること
  2. 働き方改革関連法」施行から5年を経過したこと

プラットフォームエコノミーの発展、労務管理のデジタル化、テレワーク勤務の増加等が進んだことにより、「労働者性の判断基準」や「事業(場)の概念」が曖昧になってきています。改正案では、それら判断基準・概念の見直しや、労使コミュニケーションの在り方、労働時間制度に関して検討が進められています。
改正案は現時点ではまだ検討段階ですが、2026年の通常国会審議を経て、2027年4月以降に施行される可能性が極めて高いと考えられています。

プラットフォームエコノミーとは

インターネット上のWEBサイト(プラットホーム)を介して、取引の相手方に特定の成果物やサービスを提供する働き方のこと

この記事で解説する改正案

この記事では「約40年ぶりの抜本改正」と言われる労働基準法について、主に労働時間に関する7項目を解説します。

  1. 連続勤務の上限規制
  2. 法定休日の特定義務
  3. 勤務間インターバル制度の義務化
  4. 年次有給休暇の賃金算定方法の統一
  5. 副業・兼業者の労働時間通算ルールの見直し
  6. 「つながらない権利」に関するガイドライン策定
  7. 週44時間特例の廃止

長期間の連続勤務を余儀なくされた結果、精神障害を発症してしまう事例が多発しているため、連続勤務の最大日数に上限を設けることが検討されています。
現行法では、休日は「1週間に少なくとも1日」与えることが義務付けられています。
特例(変形休日制)を導入した場合は「4週間に4日」与えることも認められていますが、長期間の連続勤務が生じる可能性があるこの特例について、改正が検討されています。

現行原則1週間に少なくとも1日
特例4週4日休
改正案原則1週間に少なくとも1日
特例2週2日休
13日を超える連続勤務は禁止

改正法施行後は、「13日を超える連続勤務は禁止」となります。
36協定を締結して休日労働させる場合であっても、少なくとも2週間に1日の休日確保が必要となります。

第1週就労①就労②就労③就労④就労⑤就労⑥就労⑦
第2週就労⑧就労⑨就労⑩就労⑪就労⑫就労⑬
(休日労働
休日
(上限規制)
実務ポイント
  • 就業規則への規定

長期間連続勤務が常態化している事業場では次の対応なども求められるところです。

  • 「連続勤務日数アラート」の仕組みを構築
  • 人員配置・サービス提供方法などの見直し

現行法では、法定休日は、「必ず特定すべき」とまでは規定されていません。
しかし、週休2日制が一般的となった現代では、あらかじめ特定しておかなければ、どの日が「法定休日」なのかが曖昧で、割増賃金の支払いにも迷いかねません。
こういった迷いを避けるために、法定休日を特定することが検討されています。

休日の性質働かせた場合の割増率
法定休日必ず与える義務がある週1日の休日休日労働の割増率
法定外休日(所定休日)会社が定める法定超の休日通常の残業代と同じ

シフト制や変形労働時間制で働かせている場合でも、あらかじめ、シフトの中で法定休日を特定することが求められます。いつまでに休日を特定するか、特定した休日を変更できるか等、実際の運用ルールの策定についても事前の準備が必要です。

実務ポイント
  • 就業規則への規定

休日の振替手続きルールは、社内周知をして明確化しておきましょう。
また、シフト制の場合は、次のことなども事前に対応しておくと良いでしょう。

  • シフトの組み方・法定休日の特定方法などの実務ルールを決定
  • シフト表やカレンダー上で法定休日を視覚的に分かるようにしておくとトラブル防止に

労働者の日々のワークライフバランス確保を目的として検討されています。
時間外・休日労働時間の上限規制(36協定の上限規制)は、「月単位」の規制ですが、勤務間インターバル制度では「日単位」で過重労働を防止します。

現行勤務間インターバル制度は努力義務
改正案原則11時間以上の休息(インターバル)の確保を義務化

勤務間インターバル制度は、諸外国では下表のとおり、既に罰則付きで法規されている国もあります。

イギリスフランスドイツアメリカ
義務付け有無義務義務義務法制度なし
1日当たりの休息時間11時間11時間11時間
罰則有無ありありあり

今回の労働基準法改正案では次の内容でも検討が進められています。

  • 制度の適用除外とする職種等の設定
  • 11時間の勤務間インターバル時間が確保できなかった場合の代替措置等

勤務間インターバル制度を導入する際には、始業時刻が遅くなった日の終業時刻の取り扱いルールを決めておく必要があります。また、始業時刻・終業時刻は労働者に委ねられているフレックスタイム制を導入している場合においては、従業員に対して、制度の理解促進をすることも重要です。

実務ポイント
  • 就業規則への規定
  • 現状の勤務実態を把握、属人化業務の解消
  • シフト制の業種は早番・遅番の組み合わせを工夫
  • 制度を理解するための社内教育

現行法では、年次有給休暇を取得した日(時間)の賃金は、次の3つの方法いずれかで支払います。

賃金の算定方法
現行平均賃金
所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金
健康保険法の標準報酬月額の30分の1に相当する額

しかし、①や③の算定方法の場合、日給制・時給制で働いている労働者にとっては、時給換算額より大きな額を減額されるケースが生じ得ます。これを考慮し、原則として②の方法に統一することが検討されています。

賃金の算定方法
改正案所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金
実務ポイント

これまで①や③で算定していた企業は次のような対応が必要となります。

  • 就業規則(賃金規程)への規定
  • 給与計算システムなどの設定変更
  • 社内周知

労働者が副業・兼業を行う場合の労働時間の取り扱いについての検討です。

現行
労働時間の取り扱い本業先と、副業・兼業先での労働時間を通算して割増賃金を支払う
問題点本業先と、副業・兼業先の労働時間を1日単位で細かく管理する必要がある

労働時間管理の煩雑さや、割増賃金の負担により、次のことを難しくしています。

  • 自社労働者に対して副業・兼業を許可すること
  • 副業・兼業を希望する他社の労働者を雇用すること

これを解消するために、改正案は次の内容で検討されています。

改正案
割増賃金のための労働時間管理労働時間の通算は要しない
健康確保のための労働時間管理労働時間の通算は維持する

改正案では、割増賃金のための労働時間は「通算を要しない」とされる方向ですが、同一の使用者の命令に基づき複数の事業者の下で働いているような場合は、引き続き労働時間を通算して割増賃金の計算をする必要があります。
また、健康確保のための取り組み(適正な通算管理・健康確保措置)は、これまで以上に求められます

実務ポイント
  • 就業規則への規定
  • 労働時間把握のための仕組み作り
  • 長時間労働となっている場合の健康確保措置

情報通信機器による常時アクセスの可能性から労働者を保護することを目的とした検討です。
勤務時間外や休日の社内連絡に関するルール作りの指針となるガイドラインの策定が進められています。
社内ルールの整備を法的に義務付けるものか否かまでは、現時点では未公表ですが、従業員エンゲージメントにもかかわるため、企業においては対応を進めたい事項です。

実務ポイント
  • 社内ルールの策定
  • 社内周知

現行の労働基準法では「週40時間」労働を基本としていますが、一定の業種・規模の事業場については特例措置があり「1日8時間・週44時間」まで労働させることが可能です。
この特例措置対象事業場は、次の業種かつ従業員10人未満の事業場です。

商業卸売業、小売業、理美容業、倉庫業、その他の商業
映画・演劇業映画の映写、演劇、その他興業の事業
保健衛生業病院、診療所、社会福祉施設など
接客娯楽業旅館、飲食店、ゴルフ場、公園・遊園地、その他の接客業

特例措置は設けられていたのですが、対象となる業種・規模の事業場でもその利用率は低く、1割強程度に留まっていました。現状を鑑みると、特例措置の役割は概ね終了していると考えられることから、今回の改正では撤廃に向けて検討が進められています。

実務ポイント
  • 就業規則の見直し
  • 営業時間、人員計画・シフト編成の再設計

過去の主な改正履歴

労働時間に関する主な改正履歴をまとめています。

内容
1947年

労働基準法制定
労働時間は、
1日8時間、1週48時間
休日は、
毎週少なくとも1回(または4週4日休)
割増賃金は、
時間外、深夜及び休日労働について2割5分以上
4週間以内の期間を単位とする変形労働時間制
年次有給休暇制度の創設
労働時間等の規制の適用除外
(災害時・36協定締結・管理監督者等)
1987年週48時間 → 週40時間制へ(段階的短縮)
変形労働時間制・裁量労働制の導入
年次有給休暇付与日数の引上げ
2017年労働時間の適正把握のためのガイドラインの策定
2018年時間外労働の上限規制
中小企業の割増賃金率の見直し(月60時間超の時間外労働)
年5日の年休取得義務
フレックスタイム制の見直し
高度プロフェッショナル制度の創設
2020年代中小企業の割増賃金率の引き上げ(月60時間超の時間外労働)
時間外労働の上限規制の適用猶予終了(医師・建設業・運送業)

まとめ

今回の労働基準法の改正は、単に労働時間について規定・規制をするだけでなく、働き方の多様化を反映させた「時代に即した法にするための改正」となっています。
抜本改正ですので、就業規則の見直しや、社内ルールの策定、従業員が制度を理解するための研修の実施、勤怠システムの設定等、事前にしっかりと準備期間を設けておくことが重要です。