はじめに
社会保険料や税の負担が生じるのではないかと気にして就業調整をする、いわゆる「年金の壁」問題を解消するために、社会保険制度や税制の見直しが進められています。
毎年変わり続ける「壁」について、この記事では、社会保険に関する壁(106万・130万・150万)を中心に、現行制度と、2026年の変更点を解説します。
「年収の壁」とは
まず初めに、「年金の壁」の全体像を見ていきましょう。「壁」には3つの種類があります。
| 壁の種類 | 影響を受けるもの | |
|---|---|---|
| ① | 社会保険に関わる壁 | 社会保険加入義務 |
| 被扶養者の対象可否 | ||
| ② | 税金に関わる壁 | 住民税 |
| 所得税 | ||
| 配偶者控除 | ||
| 扶養控除 | ||
| ③ | 配偶者手当に関わる壁 | 企業独自のルールによる手当の支給可否 |
2025年の「壁」を低い順から並べると次のようになります。
| 壁 | 種類 | 壁を越えたときに起こること |
|---|---|---|
| 106万円 | 社保 | 社会保険加入義務が発生する (一定規模以上の企業で週20時間以上勤務する場合) |
| 110万円 | 税 | 住民税が課税される |
| 123万円 | 税 | 所得税が課税される |
| 税 | 配偶者控除の対象外となる ※年収160万円までは配偶者控除満額と同額の配偶者特別控除が受けられる ※年収160万円~201.6万円は配偶者特別控除が段階的に減少する ※年収201.6万円超で配偶者特別控除はなくなる | |
| 税 | 扶養控除対象外となる ※19歳~23歳未満の特定親族は年収188万円まで特定親族特別控除の対象 | |
| 130万円 | 社保 | 社会保険の扶養対象外となる ※配偶者以外の19歳~23歳未満は引き続き扶養対象 |
| 150万円 | 社保 | 配偶者以外の19歳~23歳未満も社会保険の扶養対象外となる |
| 税 | 特定親族特別控除が満額ではなくなり、段階的に減少する | |
| 160万円 | 税 | 配偶者特別控除が満額ではなくなり、段階的に減少する |
| 188万円 | 税 | 特定親族特別控除がなくなる |
| 201.6万円 | 税 | 配偶者特別控除がなくなる |
これらの「壁」のうち、この記事で解説する「壁」は、黄色部分の106万・130万・150万に関する壁です。
この3つの壁は社会保険の被扶養者となるか否かに関わる壁です。
106万の「壁」
現行
勤務する企業規模によっては、健康保険・厚生年金保険への加入義務が発生する年収の壁です。
次の条件で働く場合は、社会保険の扶養から外れ、勤務先で社会保険に加入する義務が発生します。
| 企業規模 | 厚生年金被保険者数が常時51人以上の企業 |
| 労働時間 | 週の所定労働時間が20時間以上 |
| 賃金 | 月額8.8万円以上 |
| 勤務期間 | 継続して2か月を超えて雇用される見込みがある |
| その他の条件 | 学生でないこと |
2026年の変更点
この「106万円の壁」は、2026年には次のように変わります。
| 企業規模 | 厚生年金被保険者数が常時51人以上の企業 |
| 労働時間 | 週の所定労働時間が20時間以上 |
| 賃金 | 賃金要件は撤廃 |
| 勤務期間 | 継続して2か月を超えて雇用される見込みがある |
| その他の条件 | 学生でないこと |
賃金要件撤廃の背景には、全国的な最低賃金の上昇があります。
週20時間以上で働く場合は年収106万円を超えるケースが増え、賃金要件を設ける必要性が薄くなりました。
撤廃されると、厚生年金被保険者数が常時51人以上の企業で週20時間以上勤務する場合は、賃金額に関わらず社会保険の加入義務が発生することになり、「106万円の壁」は無くなります。
撤廃の時期は2026年10月となる見込みです。
130万の「壁」
現行
勤務先の企業規模にかかわらず、社会保険の扶養から外れる年収の壁です。
年収が130万円以上となったことにより扶養から外れた場合は、国民年金・国民健康保険に加入します。
「年収」に含むべき収入は、106万円の壁と130万の壁では少し異なりますので確認をしておきましょう。
| 基本給 諸手当 | 最低賃金の対象にしないもの | その他の収入 | ||
|---|---|---|---|---|
| 年金収入 | 副業収入 | |||
| 106万円 | ● | ― | ― | ― |
| 130万円 | ● | ● | ● | ● |
106万の壁は、一定規模以上の企業で働く場合の社会保険加入義務を判断する基準であるため、勤務先の基本的な賃金が「月額8.8万円」以上となる働き方であるか否かで判断されます。
これに対して130万円の壁は、社会保険の被扶養者となるか否かの判断基準であるため、全ての収入を含めた「年収」で判断されます。
- 通勤手当・家族手当・精皆勤手当
- 残業代
- 賞与
- 臨時の手当
また、本来の雇用契約では「年収130万円未満」となるはずだった方が、一時的な要因により、その年の年収が130万円以上となってしまった場合は、勤務先の事業主にその旨を証明してもらうことで、引き続き扶養に入り続けることが可能です。
次のようなケースが該当します。
- 他の従業員が休職・退職したことにより、業務量が増加した
- 突発的な大口案件により、業務量が増加した
- 繁忙期の勤務時間が通常月より長くなった
ただし、この取り扱いは、原則として連続2回を上限とします。
恒常的に収入が増えることが確実な場合(昇給した、手当が新設された、所定労働時間・出勤日数が増加した場合等)は、「一時的な要因による収入変動」とは認められません。
なお、「130万円の壁」に関する年収要件は、被扶養者の年齢等により次のとおり読み替えをします。
- 60歳以上および一定の障害者:180万円未満
- 配偶者以外の19歳~23歳未満:150万円未満
2026年の変更点
給与収入における年収の判定方法が、認定日が2026年4月1日以降のものから変更になります。
| 現行 | 年収は、「今後1年間の見込み額」で判定する。 年収が一時的に変動(増加)した場合は事業主証明を提出する。 連続2回を上限として被扶養者継続が認められる。 |
| 2026年4月以降 | 年収は、雇用契約書等に記載された内容で判定する。 年収が一時的に変動(増加)しても、即座に事業主証明を提出する必要はない。 扶養の認否確認は従来通り毎年行われ、保険者から年収についての証明書類等の提出を求められた場合は応じる必要がある。 年収要件の範囲に収まっていない場合でも、超えた額が常識的な範囲であれば、上限回数制限など無く、被扶養者継続が認められる。 |
参考:労働契約内容による年間収入が基準額未満である場合の被扶養者の認定における年間収入の取扱いに係るQ&Aについて
2026年4月以降の給与収入における年収判定は、残業代などを含めた「見込み額」ではなく、雇用契約書等に記載した内容によって行われます。
一時的な要因で収入が増えたときの「認められる範囲(額)」については、具体的な数値では示されていませんが、雇用契約書上では年収要件を満たしていても、記載されている「所定労働時間」に比べて、実際の勤務時間が毎月明らかに多いというような場合は、正しい労働条件を記載できていない可能性があります。
雇用契約書等に記載する内容と実態が合っていないときは、適宜更新をしておきましょう。
また、扶養認定は、各保険者によっても提出書類や基準が異なることがあります。加入する保険者からの要請を確認して、適切な対応を行うことも大切なポイントです。
150万の「壁」
健康保険の扶養認定を受ける方が19歳~23歳未満の場合(被保険者の配偶者を除く)の年収の壁です。
2025年10月1日以降の期間について扶養認定を受ける場合の年収要件が、現行の「130万円未満」から「150万円未満」に壁が引き上げられ、扶養の範囲が拡大しています。
| 2025年9月まで | 年収130万円未満 (60歳以上または障害者の場合は年収180万円未満) および 同居の場合:収入が被保険者(扶養する人)の収入の半分未満 別居の場合:収入が被保険者(扶養する人)からの仕送り額未満 |
| 2025年10月1日以降 | 年収130万円未満 (60歳以上または障害者の場合は年収180万円未満) (被保険者の配偶者を除く19歳~23未満の場合は年収150万円未満) および 同居の場合:収入が被保険者(扶養する人)の収入の半分未満 別居の場合:収入が被保険者(扶養する人)からの仕送り額未満 |
年齢要件(19歳以上23歳未満)は、扶養認定日が属する年の12月31日時点の年齢で判定します。
例1:扶養認定を受ける方が2026年11月に19歳の誕生日を迎える場合
2026年12月31日時点で19歳であるため、
2026年(1月1日~12月31日)における年収要件は「150万円未満」となる。
例2:扶養認定を受ける方が2026年11月に23歳の誕生日を迎える場合
2026年12月31日時点で23歳未満ではないため、
2026年(1月1日~12月31日)における年収要件は「130万円未満」となる。
まとめ
2026年の「壁」では、労働契約の内容がわかる書面(雇用契約書や労働条件通知書)を整備することが、今まで以上に重要なポイントとなります。
労働契約の内容(所定労働時間・所定労働日数・給与に関すること)を正確に記載できているか、書面で交付しているか、しっかりと確認をしておきましょう。
また、実態(実際の働き方)と、書面で交付した労働契約の内容に乖離が生じていると感じるときには、正しい内容に更新することや、もしくは労働契約通りに働けるように人員配置などを工夫する必要があります。